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寅さん

10年をひと昔というならば、この物語の発端は 今からふた昔半ほど前のことである
・・・と始まるのは『二十四の瞳』ですが、
昭和がちょうど、ふた昔半前ですね。

年末や、夏のお彼岸の頃になると、決まって観たくなる映画があります。
『男はつらいよ』
映画が見たいというより、寅さんに会いたくなるのです。
シリーズの大半が、お盆や暮れだから。

お正月やお盆など、昔は家族どころか親戚一同が集まって、賑々しく過ごしたものですよね。
めったに会えないおじさんやおばさん、いとこたちが、田舎のおばあちゃんちに集まって、
おばさん達が作ってくれたご馳走や、出前のお寿司が、テーブルの上に所狭しと並び、
おじさんたちはビールを飲んでいたり・・・・
楽しい思い出、というよりは、
「お正月やお盆の思い出」として、わたしの中にはストックされています。

そんな、家族が集まる時期だから、
柴又のとらやさんではふと、どこか旅の空の下にいる寅さんを思い出しては、
「おにいちゃん、今頃どこにいるのかしらね」と 
さくらが呟くのであろうし、
そんな時期だからこそ、なんとも間の悪いタイミングで寅さんが帰ってきたりするのでしょう。


子供のころは しょっちゅうテレビ放映していた寅さんシリーズですが、
まるまる1作、通しで観られたことはありませんでした。
夜9時から11時までという放送時間だったので、単純に眠くなってしまうこともあったし、
なにより 寅さんが嫌いでした。
柄は悪いし自分勝手だし、こんな人がいたら嫌だなぁ と。

大人になってから改めて寅さんに出会うと、
「なんだか寅さんに会いたくなっちゃった」と、
遠くからとらやに寅さんを訪ねてくるマドンナたちの気持ちが、
わかるようになりました。

自分勝手でちやほやしてもらえないと すぐすねちゃうし、
お調子者で、
とっても優しくて、誰よりも繊細でデリケートで。

マドンナたちに片思いしてはふられてばかり、というイメージの寅さんですが、
実はけっこう、本気で恋してもらえてたりも するんですよ。
寅さんからのプロポーズを待っているマドンナたちに、でも寅さんは、
プロポーズできないのです。
家庭を築き、愛した女性を幸せにするために働く。
そんな現実を前にすると憶病になり、そっと姿を消してしまうのです。
とても弱い人でもあります。
「好きだって、言ってやれよ、寅さん!」
と思ってしまうことも、しばしば。
彼女の幸せのために、黙って身を引くこともあります。
そんなときの寅さんは、とても強くて悲しい。


旅から旅へ。
現実のしがらみから遠く離れて、自由気ままに暮らしている寅さんを思い、
「兄さんは、おじさんは、寅ちゃんは いいなぁ」
と、さくらの旦那のひろしや、さくらの息子のみつおや、とらやの裏で印刷工場を営むタコ社長が、
遠い目をしながら呟いたりすることもあります。
現実逃避したくなると、人は根なし草のような寅さん的生活に、憧れを抱くのです。
実際にできるかどうかは、考えもしないで。


現実に生きる、堅実さと不自由さ。
自由に生きる、気楽さと孤独。


「なにかあったら、柴又のとらやを訪ねな。
おれの親戚がいて、力になってやるからな」
と、旅先で知り合う薄幸のマドンナたちを元気づけてくれる。
そして悩みを抱えて本当に訪ねてくる、みずしらずのマドンナたちを、
とらやの人たち(寅のおじ・おば夫婦、妹さくら・ひろし夫婦)はいつもあたたかく、
迎え入れてくれるのです。
ちょっと休んで、疲れをいやして、また、自分の道を歩き出せるように。



平成という時代は、寅さんみたいな人にとって、生きにくい世の中になってしまったような気がします。
あっというまに昭和は、ふた昔半も前のこととなってしまいました。
by patofsilverbush | 2013-12-11 09:57 | 本・映画

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