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視点を変えてみる(アン第10章・その1)

ある夕方、リンド夫人は窓際の椅子に腰かけて、いつものように編み物に精を出していた。
穏やかな春の夕暮れであったが、
夫人の胸の中には 穏やかならぬ感情がうずまいており、
夫人がせっせと動かす編み棒の速さにも、それがあらわれているのであった。
「まったく、あの孤児ときたらね!」夫人はぶつぶつとひとりごちた。
「お客に向かって、なんていう態度だろう!
だから どこの馬の骨ともしれない孤児をひきとるなんてことには反対だったんだよ。
マリラにもそう言ったのに。
もっとも、言ったときにはもう手遅れだったけどね。
かわいそうに、今頃はマリラもさぞ後悔しているこってしょうよ。
それというのも この私、レイチェル・リンドに前もって相談しなかったのが間違いのもとさ。
この先一体、あのおっそろしい癇癪持ちをどうやってしつけていくもんだか、
見ものだね、まったくのところ!」

トントンとドアをたたく音がした。夫人が顔をあげると、
ドアから入ってきたのはマリラと、きのう夫人に向かって癇癪玉を破裂させた、
あの赤毛の孤児であった。
「おやおや、何しにいらしたんですかね」と夫人が口を切るより先に、
子供はリンド夫人に駆け寄り、がばっとひざまずくと、両手を夫人に向かって差し伸べ、
大きな灰色の目に苦悶の色を浮かべながら、
「おお!」と叫んだ。夫人はあっけにとられた。




・・・・失礼しました。このところ数回に分けて読んだ『赤毛のアン』第10章。
初対面のリンド夫人に、赤毛やそばかすのことをずけずけと指摘され、
怒り心頭のアン。足をふみならして癇癪玉を破裂させた挙句、
罰として、夫人に謝りなさい、謝るまで部屋から出さないよ とマリラに言われます。
あたしは悪くないから謝れない!とガンとして言うことを聞かないアン。
見かねたマシュウがそっと出してくれた助け舟のおかげで、自分の態度も悪かったと反省したアンは、
しおしおと夫人に謝りに行きます。
ところが、そのアンのお詫びときたら・・・!あっけに取られるマリラなのでした。

という内容。
ちょっと視点を変えて、リンド夫人の視線で、物語を始めてみました(笑)。



当時の子供は「小さな大人」として、いつも礼儀正しく振舞うことが要求されていました。
きちんとごあいさつしたら、話しかけられるまでは子供の方から話しかけてはいけないし、
それは家庭の食卓でも同じだったようで、
ローラの旦那さんとなる、アルマンゾの少年時代にも、
食事時は子供は黙って食べなくてはいけないし、両親に話しかけられたら、
「はい、父さん」「いいえ、父さん」と返事しなければいけなかった と書かれています。
(アンはしゃべりたいだけ、しゃべっていますね!)

『赤毛のアン』を読むと、初対面の女の子に向かって、
やれ人参のように髪が赤いとか、ひどいそばかすだとか、
はては器量が悪いなどと言うことを はっきり、ずけずけと言うリンド夫人は
わ~ひどい!と思うシーンですが、夫人にとったら別段 悪気もなかったのに、
お行儀よくあるべきはずの、しかも、たかだか孤児の子供に恐ろしい剣幕で怒鳴り散らされて、
さぞや不愉快だったことでしょう。

いつも自分の視点で物事を考えてしまいますが、
ときどき視点を変えてみると、
わたしがリンド夫人でも 自分のことは棚に上げて、アンの剣幕にはびっくりし、
「子供のくせに!」と、不愉快になったろうな と思ったりしました。
by patofsilverbush | 2014-06-28 09:21 | ferrbirds赤毛のアン

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